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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和49年(少)676号 決定 1974年4月19日

少年 H・I(昭三五・二・一五生)

主文

少年を教護院に送致する。

押収にかかる別紙一覧表記載の物はこれを没取する。

理由

(非行事実)

少年は中学校に在学中であるが、後記の如く両親から自宅学習を強いられて強い不満を持ち学習意欲もなくしていたが、中学二年に進級するやこれに加えて学校においては学友達からひんばんにいたずらや暴力を加えられこれらに反撃もし得なかつたことから憤激の情がたかまり、いつそ世間を騒がしてやろうと考え、

1  Aと共謀のうえ、昭和四九年三月二日午後二時二五分頃、北九州市小倉北区○○町×番×号株式会社○○屋店内南側階段二階と三階の中間踊場において、擬装爆弾(オロナミンCドリンク空びんおよびコカコーラ空罎に乾電池二個を接続させるなどして黒ビニールテープで巻いたもの)一個をあたかも真実の爆発物であるかのように装つて人目につくように同所に置き約三時間三〇分にわたつて同所を混乱に陥し、もつて偽計を用いて同会社の業務を妨害し

2  同月六日午後三時三〇分頃、北九州市が管理する人の通行がひんぱんな同市小倉北区○町×丁目に架設された歩道橋上において、悪戯で擬装爆弾(キャンデーナッツの空罎にウニの空びんおよび結線した乾電池などを接続したもの)一個をあたかも真実の爆発物であるかのように装つて人目につくように同所に置き約三時間三五分にわたつて同所を混乱に陥して附近商店の業務を妨害し

3  人の身体および財産を害する目的で同月七日午後六時三〇分頃、北九州市小倉北区○町×丁目×番××号○井○株式会社○○○営業所(所長○岸○夫)前軒下において、オロナミンCドリンク空びんに火薬、釘、チリ紙を詰め導火線を接続した爆発物一個を同所に装置し導火線に点火して同爆発物を爆発させ、もつて爆発物を使用するとともに、上記爆発により同営業所所長○岸○夫管理の同営業所表側出入口戸のガラス一枚(時価約五、〇〇〇円相当)および同営業所前に停車中の○本○広所有の小型貨物自動車左側後部ボデーのモール一個(時価約八〇〇円相当)を各損壊し

4  上記の如く○井○株式会社○○○営業所の表側出入口戸ガラスを爆発物をもつて損壊したことを奇貨として、同月九日午後五時頃北九州市戸畑区○○×丁目××番○○号の自宅において同営業所長○岸○夫宛に「お前の家に爆弾を仕掛けたのは我々だ。我々はお前の家が被害が少なかつたことを残念に思つている。もつと効果のある爆弾を三月一三日から三月二〇日にお前の家の前に仕掛けて爆破する。爆弾を仕掛けた犯人より。」との書面を作成して同書面を郵送し、同月一一日午後零時頃前記○井○株式会社○○○営業所内の○岸○夫方に到達させて内容を了知させ、もつて○岸○夫ならびにその親族の生命、身体、財産等に危害を加えるべき旨告知して脅迫し

5  同月一一日午後五時頃北九州市小倉北区○町×丁目×番×号株式会社○○○屋店内正面階段四階と五階の中間踊場において、擬装爆弾(竹筒と乾電池などを接続させ黒ビニールテープで巻いたもの)一個をあたかも真実の爆発物であるかのように装つて人目につくように同所に置き約四〇分間にわたつて同所を混乱に陥し、もつて偽計を用いて同会社の業務を妨害し

6  人の多数集る場所に爆発物を仕掛け、これを爆発させて人の身体および財産を害する目的で、そのために人が死亡することを止むを得ないと考え同月一三日午後五時七分頃北九州市小倉北区○○×丁目×番×号国鉄○○駅構内において同所に設置された株式会社○ャ○ン○キ○プ○ス○○営業所所有のコインロッカーの一箱内にオロナミンCドリンク空びんに火薬、釘、チリ紙を詰め導火線を接続した爆発物一個を装置し、導火線に点火し同爆発物を爆発させて爆発物を使用し、その結果同コインロッカー付近にいた○嘉○子(当二二年)に対し加療約五日間を要する頭頂部挫傷、○利○子(当二五年)に対し加療約三ヶ月間を要する頭部、腹部挫傷兼第一腰椎圧迫骨折等、○田○子(当二二年)に対し加療約五日間を要する頭部挫傷等、○井○一○(当三一年)に対し加療約一〇日間を要する左頭頂部挫創等、○田○子(当二三年)に対し加療約七日間を要する頭部挫傷等の各傷害を負わせたにとどまり人を死亡させるに至らず、その際上記コインロッカー一六個(時価約五〇万円相当)、同コインロッカー在中の○合○所有の写真機用三脚一個(時価約五、〇〇〇円相当)を各損壊するとともに、上記爆発により折からのラッシュ時における国鉄○○駅構内の乗降客を混乱させる等により同駅の正常な業務を継続することができないようにし、もつて威力を用いて国鉄○○駅の業務を妨害し

7  同月一九日午後三時三〇分頃、上記自宅にいたところ同じ中学校の友人のAからからかわれたことに立腹し同人に仕返ししようと考え、同人およびその親族の身体および財産を害する目的で同日午後四時三〇分頃、北九州市戸畑区○○町××番××号A方前の同区○○町×番××号の空地において、リポビタンD空びんに火薬とチリ紙を詰め、導火線を接続した爆発物一個を同所に装置して導火線に点火して同爆発物を爆発させ、もつて爆発物を使用するとともに上記A方表玄関ガラス戸のガラス二枚(時価約九〇〇円相当)を損壊し

8  Aと共謀のうえ、人の身体および財産を害する目的で同月二〇日午後一時二〇分頃北九州市戸畑区○○×丁目××番××号○○ビル南側四階踊場において、塩化ビニールパイプに火薬、チリ紙などを詰め導火線を接続した爆発物一個を同踊場の窓の棧に装置し、導火線に点火して同爆発物を爆発させ、もつて爆発物を使用するとともに、同ビル長○中○所有の窓ガラス二枚(時価約一五、〇〇〇円相当)を損壊したものである。

(法令の適用)

1の事実につき、刑法第二三三条、第六〇条

2の事実につき、軽犯罪法第一条第三一号

3の事実につき、爆発物取締罰則第一条、刑法第二六一条

4の事実につき、刑法第二二二条

5の事実につき、刑法第二三三条

6の事実につき、爆発物取締罰則第一条、刑法第二〇三条、第一九九条、第二六一条、第二三四条

7の事実につき、爆発物取締罰則第一条、刑法第二六一条

8の事実につき、爆発物取締罰則第一条、刑法第二六一条、第六〇条

(送致事由)

少年は教養のある父母のもとに経済的にも恵まれた家庭に育ち現在中学三年生であるが、少年の将来の学歴を重視する父母に小学校高学年の頃より学校から帰宅後の学習を指導されたが、中学一年に進むにつれてその厳しさを増し少年にとつてはそれが次第に重圧に感ずるようになり、父母に対し表面上反撥はしないが強い不満を抱き学習意欲もなくなり、爆竹遊びにその感情の発散をはかつていたが、中学二年になるとそのような感情のうつ積が益々激しくなり、加えて学校においても友達関係がうまく行かないことから学友達よりひんぱんにいたずらや、暴力を加えられるようになり、それらに対し直接に応復をなし得ないことから怒りをつのらせていた。たまたまその頃上記の爆竹遊びからその火薬を使用していわゆる爆弾を作り人通りのないところでその爆発を楽しんでいたが、その爆弾を利用して前記の学友に対する怒り等に代えて世間を驚かしてやろうとの考えのもとに上記非行事実1、2、5の如く擬装爆弾を多くの人が集まる場所に置いて、人の驚き困惑する状態を新聞等によつて確かめて満足していたが、更に騒ぎを大きくしようと考えて上記非行事実3、6ないし8の如く少年又は共犯者Aの作つた爆弾を人の多数集まる場所で爆発させるに至つたものである。

少年の資質の面をみると、知能は決して低くはないが、性格的に内閉的、神経症的、強迫的特徴がみられ、特に対人関係において問題点が認められる。即ち非常に自己中心的で他人に対する思いやり、自己の行動の他人に対する影響等への配慮は全く無頓着であるが、他人の自己に対する悪意の言動に対しては極めて敏感である。然しそれに対するこれまでの適応の失敗から委縮して、抑うつ的、自閉的となりがちで、常にそのような対人関係からは孤立化し、被害感情をつのらせ自棄的な気分に支配されることが、鑑別結果によりあげられている。

以上のように考察してくると、本件の経緯や少年の資質面に存する問題点等から、従来の家庭における指導方針には転換を求める点も多く、また少年の上記性格や父母に対する疎外感情および本件非行の危険性、社会に与えた深刻な不安等諸般の事情を考慮するとき、少年を相当期間教護院に送致して専門的指導を加えるのが相当であると考えられる。

なお虞犯保護事件についてみると、昭和四九年三月二四日審判に付すべき事由として「少年はかねてから自宅で爆弾を製造することに興味を持ち、これを父に発見され禁止されたのに、昭和四九年二月中旬頃北九州市戸畑区○○公園内において製造した爆弾を爆発させ、その後も爆弾製造の材料を集めて爆弾の製造をしようとしている等、保護者の正当な監督に服さず、このまま放置すればその性格、環境に照らして将来爆弾を爆発させて他人の生命、身体、財産に危害を及ぼす罪を犯す虞れがある。」との少年法第三条第一項第三号イに該当する虞犯保護事件(第六七六号)が送致され、次いで同年四月一三日上記業務妨害、威力業務妨害、殺人未遂、脅迫、器物損壊、爆発物取締罰則違反、軽犯罪法違反保護事件(第八三二号、以下本件非行二事件という。)が送致されたのであるが、本件記録によれば上記虞犯事件は本件非行事件によつてその非行の虞れは実現化し、しかも両者は密接な同一関係にあるので、本件は非行事件によつて上記保護処分に付せば足り、敢えて虞犯保護事件をもつて保護処分に付する必要はないものと言わなければならない。

以上の次第で主文第一項につき少年法第二四条第一項第二号を、没取につき同法第二四条の二第一項第二号、第二項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤敦夫)

別紙一覧表(編略)

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